寄り道
 
  「言ってほしくない昔の事..」
 
  朝、母にコーヒーをいれてる時に、私の若い頃の話を時々され
 る。その話を黙って聞いてるのだが、私にとって都合の良い出
 来事なら結構。「そうかい、そうかい」と聞いてられる。大方は、
 自分の都合の良いことではない、たとえ母の機嫌が良くてもだ。
 例えば、新聞やテレビのニュースを見るとき、どこかで災害が
 あったとか不幸な事故があった時などは、黙って目を離さずに
 見入っているはず。これが、何よりの証しだと思う。見ている人
 が悪いというのではなく、自分でも気がづかないことだ。
 母の場合は、特に外に出ないので家に隠(こも)りっきりになる
 ので、視野が狭くなる。過去の事を何回も何回もほじくり返し、
 自分がどの様に対処したか、又は、ひどい目にあったとか、そ
 の様なことを自分の中でもんでいるのさ、結果として口から言
 葉は、悪気無くてもひどい内容の話になっちゃうのだと思う。
 今迄は、家内の話だとかヘルパーさんのこと、たまぁに来る妹
 ことのだった。先日、「若いとき、付き合っている人
 がいると連れてきた人が、アーちゃんだったものね。愛想が悪
 かったね」と来た。そこまでは良いのだけど「その前の人は、
 愛想が良くって髪の長い人だったよね。」ときた。私も、42年
 くらい前の話を昨日の様に話されて、ビックリした。私も、家内
 には、全部話してあるけど改めて前の話をされると、一瞬えっと、
 何なのと思う事あるかも知れないじゃないか。「母さん、すまな
 いがそんな昔の話は勘弁してよ」と言ったよ。
 私もその時期があったんだ。ボケっと過ぎ去った青年期。人生
 の岐路の時ともいわれる。今更初恋の人事言われてもなぁ。
 
  母も、近頃ボケだしたと自分で言っているが、「どうして、ど
 うして」まだまだ頭は、健在ですよ。ヘルパーさんの偉い人か
 ら「ボケたら言うからね」と言われたらしいが。母は、「ボケた
 時に、言われても理解出来るかね」と私に聞いてきたがどう返
 事をしたら良いのか迷うところだ。私は、思うよ。世の中で名を
 上げた人がお国入りするニュースを見たり聞いたりするが、あれ
 は立派だなと思う。何故かというと、故郷には幼少時代からどの
 に育ったか、良いも悪いも知っている人達の中に行く訳だ。そこ
 で偉そうなことを言うと「お前がガキの頃は...」と。言われ事もあ
 ると思う。そのことから郷土(くに)入出来る人は偉いという事さ。
 
 普段、あまり目立つ悪さも無しに生活行動している私でも、突然、
 母に想定外の話出され狼狽(うろた)えてしまった。
 
 
 
                       春風するめ