ちょっと一休み
 
   「感動ものは、見たくない」
 
   感動もの映画や話を聞くと涙もろくなってきた。
  こちらの意思に関係なく、涙が出てくる様になってきたので、
  心の病気にでもなったのかなと不安になってきた。
   その様な事を、娘と家内に話しすると、娘が「病気でも、年の
  性ではないよ。当たり前の心をもっている証拠よ」と、返事が来た。
   以前に涙が出た映画を思い出した。
 
   何かやりばの無い気持をもった青年が、山を歩いているとき、
  木々の中から歌声が聞え引き込まれるように行くと、一軒家に
  盲目のおばちゃんが、明るく暮らしていた。
   何故おばあちゃんが、明るく暮らしているのか興味を惹(ひ)
  かれ、何回もたずねるようになった。
   おばあちゃんは、青年が人生の目的を探し求めていることを
  察し、自分の生活体験などを通して、青年に語りかけてく話筋
  だ。
   おばあちゃんの若いとき、恋人が徴兵され、彼の親元の料理
  屋で働いていたが、原因不明の病気で少しずつ失明し仕事も
  出来なくなり、按摩さんをしながらの生活をするようになって、
  家にいることになった。
   ところが、火の用心が悪いということで、町の人達から苦情が
  出て、挙げ句の果てに山奥に追い出されたという境遇だ。
   話を聞いた青年は、おばあさんに色んなところへ連れて行く。
 
   そして、元働き住んでいたであろう料亭らしき所、塀で囲まれ
  ている家に辿りついた時、お婆さんは表札を見もしないで塀の引
  き戸を開け、花の香りするところへ行ってしまった。
   青年は、どの様な人の家なのかわからないので、ご主人に
  「花を見せてください」と断りにいった。
玄関の奥で、じーっと黙って見ていた初老の男性が、ゆっくりと
お婆ちゃんに近づいて「やっと、会えたね」と...。
   お婆ちゃんの旧恋人を引き合わせる事になった、青年は映画を
  見ている私のように思え、語りかけているようだ。
 
   この場面を、見て何と考え受け止めようか。
   涙がとまらず、隣の人に見られないように拭いた事を思い出
  した。
    感動の物語の結末は、覚えていないが。
   私としては、涙が出たのが、問題で子供の頃に言われた事を、
  思い出し、泣いたと悪ガキの友達にも馬鹿にされたものだ。
   その様な事が、頭の中にあるものだから。
   映画を誘った、スキンヘッドのT氏に「感動ものの話や映画は、
  涙が出るので見たくないのだ」と、話した。
   少し黙って頷(うなず)いてから、「たまきさん、涙流した分、心が
  洗われるから良いんだよ」と、優しい言葉が帰って来た。
 
   娘が言う「楽しい時、悲しくなって泣くのは、問題だけど、そうで
  なければ大丈夫よ」と、それなら気を取り直そうか。
 
 
                        春風するめ